不妊治療って?
生殖補助医療(ART)という選択肢

不妊症とは?

「妊活しているけれど、なかなか妊娠しない…」そんな悩みをもつ方にむけて
「不妊ってなに?」
「不妊の検査はどんなことをするの?」
「不妊はどうやって治療するの?」といった疑問にお答えしていきます。

監修:医療法人 浅田レディースクリニック 理事長 浅田義正先生

フニンのギモン

そもそも「不妊」ってなに?

妊娠したいと思っている健康な男女が避妊せずに性生活を行っているのに、1年以上妊娠しない場合、一般的に「不妊」と考えます。

「不妊」の人ってどれぐらいいるのだろう?

不妊について心配したことがあるカップルは3組に1組以上で、実際に不妊の検査や治療経験があるカップルは4.4組に1組います。※1

  • 「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(国立社会保障・人口問題研究所)
なにが原因で「不妊」になるの?

妊娠するには「卵子と精子が出会い、受精して着床する」というプロセスが必要で、そのプロセスのどこかに問題があれば妊娠しません。不妊の原因は、男性側・女性側のどちらかに原因がある場合、両方に原因がある場合があるので、カップルで検査することをおすすめします。検査をしても原因が分からない場合もあります。

  • 排卵しにくい
  • 卵管がふさがっている
  • 着床できない
  • 精子が進めない、進みづらい
  • 精子をうまくつくれない
  • 精子がとおれない
  • 性交渉ができない
  • この他に原因がわからない場合もあります

女性の場合

排卵しにくい

定期的に月経がある女性は、月1回排卵します。しかし、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺の病気などが原因で、排卵しづらかったり、排卵しなかったりすることがあります。また、ストレスや、過度なダイエットにより、月経不順となることがあります。

卵管がふさがっている

卵子と精子が出会う卵管がふさがっている卵管閉塞の方は、妊娠することが難しくなります。
クラミジア感染症にかかったことがある方は、卵管がふさがっていることがあります。また、子宮内膜症により卵管周囲の癒着がおこることがあります。

着床できない

子宮内膜の状態により、受精卵がうまく着床できないことがあります。また、子宮筋腫、子宮腺筋症や炎症による癒着が子宮内にある場合などは、着床が妨げられることがあります。

精子が進めない、進みづらい

排卵の時期は、子宮の入り口である頸管から分泌される粘液の量(おりもの)が増加しますが、この量が十分でないと精子が子宮へと進んでいきにくくなります。また、何らかの免疫異常で精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)を持つ女性の場合、精子と卵子の出会いが妨げられてしまいます。

男性の場合

精子をうまくつくれない

精子をつくる機能に問題があると、精子がつくれない、精子の量が少ない、活発に動く精子が少ない、奇形の精子の数が多いといった状態になることがあります。

精子がとおれない

先天性の両側精管欠損や精巣上体炎症などの過去の炎症により、通り道が詰まっていると、精子が作られていても精液中に精子が出てきません。

性交渉ができない

性交渉ができない主な障害には、勃起障害(ED)と射精障害があります。ストレスやプレッシャーが原因となることが多いですが、糖尿病などの病気が原因となることもあります。

臨床の現場からのメッセージ

現在では上記のような原因が分かるカップルはほとんどいません。大多数の不妊患者さんは上記でいうと「原因不明の不妊」に分類され、臨床の現場では、「卵子の老化」「卵子数の減少」といった問題に直面することが多いです。
卵子の老化により受精卵の染色体異常の増加がおこり、35歳くらいのヒトの場合、卵子15個前後くらいで一人の赤ちゃんが生まれます。※1
受精した卵子が順調に育つかどうかはカップルの遺伝子のバランスと偶然の組み換えが主な要因になります。同じカップルから生まれた兄弟姉妹が性格や顔つきが違うように、受精卵は一つずつの遺伝子の構成が違っていますので、多くの遺伝子のバランスと発現が上手くいった場合は赤ちゃんまで成長できると考えられます。

我々が現場で多く出会う問題は大きく分けて二つあります。受精卵ができにくい、あるいは受精卵が育ちにくく途中で発育が止まることです。
受精卵ができにくい原因として、昔から女性不妊、男性不妊と分類されていましたが、本来不妊治療は、受精卵ができにくい人に受精卵を作る手助けをすることが大きな目的でした。しかし現在では治療の進歩で受精卵を作ることはできるようになったため、原因のほとんどが受精卵の発育が途中で止まることと考えられ、現在の不妊治療では解決できない問題に直面しています。

生まれる前に一度だけ作られ、その後は減少していく卵子の本質のため、年齢を重ねると受精卵の多くが育たないという現象から生じる、女性の年齢的不妊があります。男性の加齢による影響も報告されてはいますが、女性に比べ臨床上考慮すべきエビデンスはありません。現在女性の年齢の問題は克服できません。

  • Denis A. et al., Fertil. Steril. 2017; 107: 397-404.
「不妊」の検査を受けるタイミングは?

妊娠を望んでいるのに「なかなか妊娠しない」と思った方は、医療機関を受診されることをおすすめします。

また、妊娠を希望する方や「いつかは子どもが欲しい」と考えている方も、自分とパートナーの健康状態を調べることができます。不妊の心配があれば早めに検査を受けて、正しい知識を持つことが大切です。

不妊の検査についてもっと詳しく!

「不妊の治療」ってどんなことをするの?

検査で妊娠しにくい原因が見つかった場合、それに対応する治療をはじめます。
それでも妊娠しなかった場合や、原因が分からなかった場合は、一般不妊治療と生殖補助医療(ART)という方法があります。

一般不妊治療と呼ばれる「タイミング法」や「人工授精」を一定期間行い、妊娠しない場合は、「体外受精」や「顕微授精」といった生殖補助医療へとステップアップで治療を進めていきます。
どの治療をどれぐらいの期間行うのか、また最初から生殖補助医療をはじめるのかは、不妊の原因、年齢、不妊治療に対する考え方やライフスタイルなどによって異なります。

ステップアップするのは、一般的に原因が分からないためであり、結果で判断して治療していきます。

不妊治療の方法についてもっと詳しく!

フニンのケンサ

不妊の検査にはどんな検査がありますか?

不妊の検査は、女性を対象とした検査と男性を対象とした検査があります。女性の検査から紹介します。

女性の検査

内診・経腟超音波検査

診察台の上で検査します。触診や経腟超音波検査(腟内に器具を入れ、エコー画像を観察)で、子宮や卵巣に異常がないかを確認します。

血液検査

血液を採取して、感染症がないか、排卵・妊娠にかかわるホルモンの分泌に問題がないかを調べる検査や、卵巣にどれくらいの卵子が残っているかを知るためのAMH検査などを行います。

子宮卵管造影検査

X線造影室で行います。子宮口から細い管(バルーンカテーテル)を膨らませて子宮内に造影剤をいれて、子宮や卵管に造影剤が広がっていく様子を見て、子宮の形や卵管の閉塞を確認する検査です。超音波用の造影剤を使って超音波で検査をする場合もあります。

つぎに、男性の検査を紹介します。

男性の検査

精液検査

精液の量、精子の濃度、数、運動率、形態などを調べます。

泌尿器科的検査

診察、血液検査やエコー検査を行います。

フニンのチリョウ

一般不妊治療

不妊治療では一般不妊治療をしてから生殖補助医療に移っていくことが多いとのことですが、どんな治療が行われるのですか?

一般不妊治療では、タイミング法を行ってから、人工授精にステップアップすることが多いです。必要であれば、タイミング法や人工授精と並行して薬物治療を行います。

タイミング法

超音波検査やホルモン検査などで妊娠しやすい排卵日を予測して、性交のタイミングを合わせる方法です。タイミングを合わせるだけで妊娠するカップルもたくさんいます。排卵がおこらない・おこりにくい女性は、薬物療法で排卵を促します。精子は卵管内で3日くらいは生きていると言われていますので、必ずしも排卵日にこだわる必要はなく、排卵2日前が一番妊娠しやすいという報告もあります。

薬物治療

排卵がおこらない・おこりにくい女性に対し、飲み薬や注射薬で排卵を促す方法です。

内視鏡手術

検査としても治療としても行われます。
腹腔鏡検査では、卵管周囲の癒着や子宮内膜症などがみつかることがあり、検査を行うと同時に治療できます。

人工授精

精液を採取して、元気な精子を子宮内に注入する方法です。体内で受精するので、妊娠のプロセスは自然妊娠と同じです。

生殖補助医療(ART)

生殖補助医療ではどんな治療を行いますか?

生殖補助医療は、体内から取り出した卵子と精子を体外で受精させ、受精卵を培養後に子宮内に戻す方法で、他の治療法で妊娠できなかった方が対象となります。
体外受精を行ってから、顕微授精へステップアップすることが多いです。

体外受精

卵巣から卵子を取り出し、精子と同じ容器に入れて受精するのを待ち、受精卵を子宮に戻す方法です。精子の数が一定数ある方が対象となります。
排卵誘発剤を使って卵子を育てることにより、1回の採卵での妊娠率が高くなります。麻酔や卵巣刺激の技術が発展し、痛みが少なく、重度の卵巣過剰刺激症候群はほとんどおこりません。

顕微授精

顕微鏡を使って1つの精子を選び、卵子に直接注入する方法です。体外受精で受精しなかった場合や、精子の数が非常に少ない方が対象となります。

2022年の保険適用により、体外受精や顕微授精の治療も不妊治療として広く認められるようになりました。

男性の治療

男性が受ける治療もありますか?

精管がふさがっているときは、精路再建術という手術を行います。また、精液中に精子がない無精子症の場合は、精巣や精巣上体から精子を取り出す手術があります。
そのほかに、薬による治療を行うこともあります。

不妊治療って?
生殖補助医療(ART)という選択肢