透析について 合併症やお薬について
CONTENTS
合併症について
長期間、透析をおこなっていると、さまざまな症状(合併症)がでてきます。
ここでは、透析患者さんの代表的な合併症を紹介します。
腎性貧血
腎臓は、赤血球をつくる働きをもつホルモン(エリスロポエチン)をつくっています。
そのため、腎臓が悪くなると、エリスロポエチンが不足し、貧血になります。
貧血は、どうき・息切れや疲れやすい、などの貧血症状だけではなく、心臓血管系の合併症の原因や悪化因子ともなり、QOL(生活の質)や生命にかかわります。

透析アミロイド症
腎臓が悪くなると、腎臓で分解・排泄されるβ₂-ミクログロブリンという小さなたんぱく質が体内に蓄積していきます。 長期間透析をしていると、たまったβ₂-ミクログロブリンはアミロイドと呼ばれる物質に変化し、骨、関節、腱など全身に沈着してきます。
代表的な症状としては、指が自由に曲がらない(ばね指)、握力低下(手根管症候群)、肩痛、背中の痛み、上下肢の痛みやしびれ、運動障害(破壊性脊椎関節症)、骨折などがあります。また、重症になると、腸や心臓などにも溜まり、これらの臓器の働きを障害することがあります。

こんな症状はありませんか?もしかしたら透析アミロイドーシスかも?
- ペットボトルの蓋やプルトップが開けられない。
- パジャマのボタンをかけるのに時間がかかる。
- 小銭をつまめない。
対策
対策としてβ₂-ミクログロブリンを除去しやすいダイアライザや吸着カラムを使用・併用した透析や、血液透析ろ過(HDF)を行ったりします。

高リン血症
透析患者さんでは腎臓の働きが低下しているため余分なリンを尿から排泄することができず、血中のリンが高い状態(高リン血症)になります。
血中のリン濃度が高い状態が続くと動脈硬化や二次性副甲状腺亢進症などのリスクが上がり、さまざまな症状がでてきます。二次性副甲状腺機能亢進症についてはあとで紹介しています。
高カリウム血症
透析患者では、腎臓からのカリウムの排泄が低下するため、高カリウム血症になりやすくなります。
血液が酸性に傾いたり(アシドーシス)糖尿病により、さらに悪化しやすくなります。血清カリウム濃度が高くなりすぎると不整脈などが起きるリスクが上がります。
二次性副甲状腺機能亢進症
副甲状腺ホルモン(PTH)には血中のカルシウム濃度、リン濃度の調整や骨代謝を正常に保つ働きがあります。
腎機能の低下にともない腎臓からのリンの排泄が低下して「高リン血症」になったり、ビタミンDをホルモンに変化させる活性化能が低下して「低カルシウム血症」になると、副甲状腺からのPTH分泌が増加します。この状態が長期的に続くと、副甲状腺が腫大してさらに過剰にPTHが分泌されることになります。この状態を二次性副甲状腺機能亢進症といいます。
また、二次性副甲状腺機能亢進症では、副甲状腺にある、ビタミンDやカルシウムを認識する部位(受容体)の数の減少が、さらにPTHを高める原因となります。
二次性副甲状腺機能亢進症になるとどうなる?
- 骨がもろくなる
副甲状腺ホルモン(PTH)は骨を溶かして、血液中にカルシウムとリンを放出し、血中カルシウムとリン濃度を上昇させます。そのため、透析患者さんでは骨がもろくなりやすくなります。
活性型ビタミンDの不足も骨がもろくなる原因のひとつです。 - 動脈硬化や心臓弁膜症に注意
骨から溶け出したカルシウムとリンが血管の壁や心臓の弁、関節など骨以外のところに沈着する「異所性石灰化」により、上記を含む多くの症状がでてきます。 - 慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常症(CKD-MBD)
こうして動脈硬化や骨障害などが進行し、やがて生命を脅かす状態となる合併症は慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常症(CKD-MBD)と呼ばれています。


心不全
透析患者さんでは、水分や塩分が溜まる、血圧が上がる、血管が固くなる(動脈硬化)、血が薄くなる(貧血)などさまざまな原因で心臓に負荷がかかることで、心臓の機能の低下(心不全)を発症しやすくなります。
主な原因である、水分・塩分過剰(食べ過ぎ、飲みすぎ)を防ぎ十分に透析を行う、降圧薬治療で高血圧を避ける、貧血を是正する、定期的に心臓の働き(心機能)の検査を受けるなどで心不全を予防しましょう。
高血圧
透析患者さんでは、水分や塩分が溜まる体液量の増加、血圧を調節するホルモンや自律神経の異常により、血圧が高くなりやすいことが知られています。透析患者さんの7~8割に高血圧を認めます。
過剰な食塩摂取は控え、適切なドライウェイトの管理を行いましょう。また、降圧薬による治療も大切です。
ドライウェイトとは?
透析終了時に体の中に余分な水分がたまっていないときの体重をいいます。ドライウェイトのことを「目標体重」や「基礎体重」と呼ぶこともあります。

透析低血圧
透析中に血圧が低下して、低血圧となることです。主な原因としては、透析による急速あるいは過度な水分の除去(除水)ですが、心機能低下や低栄養などが原因となることもあります。
血圧が低すぎると透析治療にも支障がでるので、このような場合は、ドライウェイトを見直す、体重増加を減らす(食べ過ぎ、飲み過ぎをひかえる)、透析の除水速度を穏やかにするなどの対策の他、血圧をあげる薬を使用します。
透析そう痒症(かゆみ)
透析患者さんの多くにかゆみがみられます。原因には、皮膚の乾燥、皮膚にカルシウムやリンがたまること、二次性副甲状腺機能亢進症、透析では除去できない毒素の関与などが考えられています。皮膚の保湿やカルシウム、リン、PTHを正常に保つなどを心がけて下さい。かゆみを抑える薬も用いられます。

お薬について
透析療法だけでは、腎臓の働きを完全に補うことはできません。足りない部分はお薬で補います。
腎性貧血治療薬
赤血球の産生を促進する腎臓で作られるホルモンである「エリスロポエチン」を直接補充する注射薬や、エリスロポエチンの産生を助けたりすることで赤血球を作りやすくする内服薬があります。
注射薬 |
遺伝子組み換えエリスロポエチン製剤
|
内服薬 |
HIF-PH阻害薬
|
高リン血症治療薬
リン吸着薬・リン吸収阻害薬
リン吸着薬は、食事に合わせて服用することで消化管(腸)内で食物中のリンとくっついて便として排泄します。
リン吸収阻害薬は食物中のリンの腸での吸収を直接抑制するお薬で、1日2回、食前に服用します。
リン吸着薬
内服薬 |
|
リン吸収阻害薬
内服薬 |
|
高カリウム血症改善薬(カリウム吸着薬)
高カリウム血症改善薬は、腸の中で薬のもつ陽イオンの代わりにカリウムをくっつけて、便として体の外に排泄させるお薬です。
内服薬 |
|
二次性副甲状腺機能亢進症治療薬
副甲状腺機能亢進症の原因である高い副甲状腺ホルモン(PTH)の濃度を適正に保つためのお薬です。
活性型ビタミンD製剤とカルシウム受容体作動薬の2種類あります。
活性型ビタミンD製剤
活性型ビタミンD製剤は腸管からのカルシウム吸収を促進し、低カルシウム濃度を是正します。
また、副甲状腺のPTH産生を直接抑制します。
注射薬 |
|
内服薬 |
|
カルシウム受容体作動薬
カルシウム受容体作動薬は副甲状腺のカルシウム受容体にくっついて、カルシウム感受性を高め(カルシウムが高くなくても高カルシウムのように誤認させる)、PTHの分泌を抑制します。
注射薬 |
|
内服薬 |
|
高血圧治療薬
降圧薬
高血圧の治療には、いろいろな種類の降圧薬を必要に応じて組み合わせて使用します。
高血圧治療薬にはACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)やARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、カルシウム拮抗薬、β遮断薬など多くの種類があります。
内服薬 |
ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)
カルシウム拮抗薬
β遮断薬
|
透析低血圧症治療薬
昇圧薬
透析時に血圧が低下する場合は透析開始前に昇圧薬を服用します。
また、透析時に限らず立ち上がると血圧が下がる起立性低血圧の薬も用いられます。
透析中に持続的に注射をして血圧を保つ薬剤が使用されることもあります。
注射薬 |
|
内服薬 |
|
透析そう痒症治療薬
かゆみ(そう痒症)を和らげるお薬には、保湿薬、ステロイド外用薬、抗ヒスタミン薬、ナルフラフィン塩酸塩、ジフェリケファリン酢酸塩があります。
ナルフラフィン塩酸塩(内服薬)やジフェリケファリン酢酸塩(注射剤)は、他のお薬を使用しても改善が認められないかゆみに使用します。
-
腎臓について教えて!
-
透析について知ろう
-
合併症やお薬について
-
透析患者さんの食事のポイント